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特集 アートシーンの現在 Vol.3

ZIPANGU 日本的な感性に根差す表現を集めた現代美術展 インタビュー三潴末雄(ジパング展 キュレーター、ミヅマアートギャラリー ディレクター)

東京、大阪、京都の髙島屋を会場に開催されている「ジパング展」(東京展と大阪展は既に終了、京都展は2011年9月28日~10月10日に開催)。本展は、百貨店では極めて珍しい最先端の現代アート展として各方面から注目を集め、大きな話題と動員を集めている。そのキュレーションを担ったのが、東京のミヅマアートギャラリーの三潴末雄さん。そして企画プロデュースを担当したのが京都のイムラアートギャラリーの井村優三さんだ。今回は二人のうち、三潴さんにインタビューのお時間をいただいた。
果たして「ジパング展」のきっかけとは、意図とは。そして、現在の日本の現代アートやマーケットに対して三潴さんが抱いている思いとは……。

インタビュー/文:小吹隆文 取材撮影:表恒匡/OMOTE Nobutada

日本が持っている土壌の中から自然と滲み出て来たような世界を表現している作家というのが選択基準

三潴末雄さん

小吹隆文(以下、小吹):まず「ジパング展」開催の経緯について教えてください。

三潴末雄(以下、三潴):ご存知のように、日本で現代アートのマーケットは、なかなか広まらない。僕は東京で井村さんは京都。どちらも都会でやっているのだけど、これまでは東京で売れなきゃ海外だということで、欧米やアジアに行ってたんです。でも、日本には日本画、洋画、骨董などいろんな世界があって、そういった分野の作品は売れているじゃないですか。だから、実は我々の情報の発信の仕方が足りなかったんじゃないかと思うようになりました。最初にそれを感じたのは、高橋龍太郎さんのコレクションが「ネオテニー・ジャパン」展として全国を回った時です。あの時に地方の美術館では動員が心配されたけど、結構人が入ったし、グッズ売り上げもあったんです。なかでも秋田県立近代美術館は、開館15周年にして初めての現代アートの展覧会だったそうです。この事実を知った時に、我々の情報が地方にきちんと発信されていないこと、展覧会を行わなきゃいけないことを悟りました。また、地方の知的な富裕層はデパートで作品を見たり買ったりしています。だからデパートできちんとした現代アート展がやれれば、将来的なマーケットの開拓にもつながるんじゃないかと。売りじゃなくて、有料の展覧会ですよ。それが動機です。


ジパング展 大阪会場 展示風景

ジパング展 大阪会場 展示風景

小吹:髙島屋での開催が決まった経緯は。

三潴:実際はデパートって、主に日本画とか洋画を扱っているので結構敷居が高くて、まず現代アートは入り切れない。かつて西武がセゾン美術館でやっていましたけど、以降は例がないですから。ところが髙島屋は以前から美術画廊Xを持っているなど、割と早くから現代アートに目をつけていたんです。そこに井村さんがつながりを持っていたので、じゃあ一緒にやりましょうと。髙島屋は、かつて竹内栖鳳(たけうちせいほう)など近代の日本画を売り出した歴史がありますが、ああいうのも当時は前衛美術だった訳です。「進取の気概」こそが社是だという会社なので、現代アートを積極的に受け入れていこうという気持ちがあったんじゃないでしょうか。あともう一つは、日本画とか洋画を支えてきたお客様が高齢化する一方で、現代アートがインターナショナルな意味で輝いていたので、マーケット的にも興味を持たれたのではないでしょうか。


池田学(出品作家)『ブッダ』

池田学(出品作家)『ブッダ』 2000
紙にペン、インク 130.3x162.1cm
(c)IKEDA Manabu
Courtesy Mizuma Art Gallery

小吹:31人の出品作家の選定はどのように行ったのでしょうか。

三潴:最初はうちと井村さんの所の作家で構成したのですが、それだけだとバランスが悪いし、なによりパブリック性に欠けてしまいます。なので、幅広く他の画廊が扱っている作家からも選出しました。タイトルに「ジパング」とあるように、古き伝統の世界の中の表現ではなくて、日本が持っている土壌の中から自然と滲み出て来たような世界を表現している作家というのが選択基準でした。

小吹:他の画廊との交渉は大変でしたか。

三潴:いえ全然。販売目的ではなく、あくまでも純粋な展覧会ですから。ちゃんとコンセプトもありますしね。むしろ「なんでうちの作家を選んでくれないの」という声があったぐらいです。


大事なのは、多様な表現の世界があることを知ってもらうこと。

小吹:6月の東京展は大きな話題となりました。

三潴:20日間の会期で約3万1500人が入場しました。もちろん髙島屋日本橋というロケーションの影響もあるだろうけど、現代アートの展覧会としては、よく入った方だと思います。

小吹:そんなお話を聞くと、やはり現代アートに対する世間一般のニーズが高まっているように思うのですが、それは楽観的すぎるでしょうか。

三潴:元々日本人は観るのが大好きで、自分で作るのも大好きだから。ルーブル美術館に毎年100万人の日本人が訪れているというし、世界の展覧会を対象とした展覧会別の観客動員数ランキングでは、常にトップ10中5つ程度は日本の展覧会が入ったりしています。そういう意味で潜在的な力はあると思うんですけどね。

小吹:「ジパング展」は東京・大阪・京都の3会場で終わりではなく、地方の美術館での開催も決定したそうですね。

三潴:既に幾つか決まっています。2012年の秋以降に開催予定です。そういう意味で、今回の「ジパング展」は始まりに過ぎないと思っています。地方美術館やデパートなど、もっといろんな所でやりたい。地方の富裕層はデパート信仰が強いので、特にアートはそういう所で評価されると安心して購入するようになるのではないでしょうか。また、カタログを見てもらうと分かるのですが、日本語、英語、中国語で表記しています。将来的には海外での展開も視野に入れています。

ジパング展 東京会場 展示風景 撮影:宮島径
ジパング展 東京会場 展示風景 撮影:宮島径

ジパング展 東京会場 展示風景 撮影:宮島径


小吹:これだけ業界内で注目が集まると、逆にアンチ的な評価もあるのでは。

三潴:僕らはこれが日本の代表だとは言っていません。今の日本のアートはこうだとも言っていない。日本にはこういう表現をしている作家達がいるよと言っているのです。例えば、村上隆が「スーパーフラット」展をやった時に、世界の大方の人々に日本の「カワイイ」とか「マンガ」の世界が普遍化してしまい、他のものが見えなくなってしまった。でも、今年3月に元森美術館館長のデビッド・エリオットが企画した「バイバイ・キティ」展がニューヨークで行われて、それに対する向こうの評論などを読んでいると「ポスト村上とかポスト奈良を探していたけど、そうじゃなかった。日本には他の表現をしている作家がいたんだ」という趣意のことが書かれていました。ようやく彼らは理解したんです。大事なのは、多様な表現の世界があることを知ってもらうこと。スーパーフラットもマイクロポップも「ジパング展」的な作家も、存在を知ってもらうことが重要です。だから、僕らにアンチができようが批判されようが、それは別に構いません。ただ一つだけ言っておきたいのは、言葉よりも行動で示してほしい。「ジパング展」とは違う世界があるなら、展覧会を企画すればいいじゃないですか。それこそが本当の意味での批評行為だと思うし、そうやってお互いに刺激し合っていけば、アート界全体が盛り上がるでしょう。

染谷聡(出品作家)『Praying for rain』

染谷聡(出品作家)『Praying for rain』 2005
漆、金、銀、流木など 45x24x45cm
(c)Satoshi SOMEYA
Courtesy imura art gallery

小吹:確かに観客側もその方が面白いですね。ところで、「ジパング展」で取り上げた日本の現代アートの傾向について、もう少し詳しく解説してほしいのですが。

三潴:我々が「ジパング展」で訴えているのは何かというと、日本的な現代アートは可能なのか、ということです。現代アートといえば欧米の文脈に基づいた表現じゃないですか。でも僕にはそういう風に作られたルール自体が窮屈に感じます。「硬直化してるんじゃないの?」「イデオロギー化されているんじゃないの?」って思う。欧米のアートも時代により変化していますが、その中でもっぱら欧米のルールに従うべきではない。我々の現代アートがきっとあるはずだという思いが僕の中にあるんです。日本はアジアの中でも深い文化と伝統がある。どんなに国際化されても、捨て切れない日本人特有のセンスや感性があるのだから、きっと欧米のキリスト教文化から生まれた作品とは違うものが作れると思うんです。


今年はきっと、現代アートと百貨店にとっての「元年」になるのではないでしょうか。

三潴末雄さん

小吹:日本のアート業界に対する危機感もあったのでしょうか。

三潴:2006年から07年頃に、日本のアートに対するミニ・ブームがありました。ちょっとしたバブル的な状況です。その時に台湾あたりのコレクターが、日本の現代アート作品をどんどん買ったんです。ほとんどが「ネオテニー」的なもの、カワイイとか幼児的なものでした。彼らは単に好きなだけでなく投資として作品を購入します。彼らは中国アートで散々成功して、次に日本の現代アートはクオリティが高い割に値段が安いということで目をつけました。しかし、それらの作品がサザビーズやクリスティーズのオークションに出されたら、ほとんど値がつかなかった。彼らに「なんだ、日本人は日本の作家を買わないのか」と言われた時は悔しかったですね。なんでこんな事を言われなきゃならないんだって。本当は逆なんです。彼らは学習するべきなんだ。日本の現代アートは「カワイイ」と「マンガ」だけじゃないことを。そして、本当に力のある作品をお金を出して買うべきなんだ。だから「ジパング展」をアジアに持って行きたい。僕は完璧にアジアを意識していますよ。


小吹:先ほど、髙島屋には進取の気概があるというコメントがありましたが、他のデパートからも引き合いはあるのでしょうか。

三潴:いろいろなお話しが来ています。今は日本画も洋画も動員や売り上げが落ちて、なかなか以前のように人が来ないらしいんです。地方のお金持ちも三代目ぐらいになるとセンスが違うし、独自の情報網も持っていますしね。そういう意味で変化の時代なんです。デパートもその風を微妙に感じ取っているのだと思います。だってデパートには外商という日本最強の営業部隊がいて、彼らは日々の業務の中でその風を受けている訳ですから。実は東京展の時に外商向けのレクチャーを行ったんです。すると彼らも「意外と面白い」って。コンセプト性の強い作品だったら小難しいけど、「ジパング展」の作品はビジュアルで判断できるから、日本画や洋画を見てきた人にも入り込みやすい世界です。その面からも可能性を感じました。

小吹:デパートの意識が変わると、現代アートのビジネスに大きな影響を与えるでしょうね。

三潴:いや、まだあまり変わっていません。でも、地方のいろんなデパートの人も見に来ています。皆、何かやろうとしています。今年はきっと、現代アートと百貨店にとっての「元年」になるのではないでしょうか。

ジパング展 大阪会場 展示風景
ジパング展 大阪会場 展示風景

ジパング展 大阪会場 展示風景


ジパング展 大阪会場 展示風景

ジパング展 31人の気鋭作家が切り拓く、現代日本のアートシーン (京都会場)
[会期] 2011年9月28日(水)~10月10日(月・祝) 会期中無休
10:00~20:00(最終日は10:00~17:00) ※入場は閉場30分前まで。
[会場] 京都髙島屋7Fグランドホール 京都市下京区四条通河原町西入ル真町52番地
http://www.takashimaya.co.jp/kyoto/
[出品者] 会田誠/青山悟/池田学/石原七生/上田順平/O JUN/ 岡本瑛里/風間サチコ/樫木知子/
熊澤未来子/鴻池朋子/近藤聡乃/ 指江昌克/染谷聡/棚田康司/束芋/天明屋尚/南条嘉毅/
藤田桃子/ 町田久美/三瀬夏之介/宮永愛子/森淳一/山口藍/山口晃/山﨑史生/ 山本太郎/
山本竜基/吉田朗/龍門藍/渡邊佳織
[チケット] 前売:一般600円 大高生400円 当日:一般800円 大高生600円
※前売券は9月27日(火)まで京都髙島屋7Fチケットショップで発売。
[公式ウェブサイト] http://zipangu.org/

[イベント情報]
9月28日(日)14:00より 三潴末雄(ミヅマアートギャラリー ディレクター)キュレータートーク ※終了いたしました。

10月1日(土)14:00より 山口晃 アーティストトーク+サイン会

10月2日(日)14:00より 宮永愛子 アーティストトーク+サイン会

10月8日(土)14:00より 森淳一アーティストトーク+サイン会

10月9日(日)14:00より 三瀬夏之介 アーティストトーク+サイン会

10月10日(月祝)14:00より 山本太郎 アーティストトーク+サイン会

インタビュー/文 小吹隆文
関西を拠点に活動する美術ライター。詳しくはブログ「小吹隆文 アートのこぶ〆」を参照。
http://blog.livedoor.jp/artkobujime/


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