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特集 場を作る Vol.3

SANDWICH|有機的な循環を生み出す、創作の現場 |インタビュー 名和晃平(美術家、SANDWICH代表)

京都市の宇治川沿いにある、サンドイッチ工場跡をリノベーションすることで生まれたSANDWICH。本施設では、アーティストやデザイナー、建築家など様々なジャンルのクリエイターが、現代アートの枠に収まらないコラボレーションを日々行っている。
また施設内の宿泊設備には、定期的に国内外の若手クリエイターが滞在。海外からのアーティスト・イン・レジデンスの受け入れを行うなど、京都というローカルな都市にあっても閉塞感を感じさせない、グローバルな展開を見せる。
さらに『ULTRA SANDWICH PROJECT』という、京都造形芸術大学内の特殊教育機関ULTRA FACTORYとのコラボレーションプロジェクトを実施。大学外で学生が刺激を受け、学べる場所としても重要な役割を果たしている。
今までのスタジオにない、多角的な可能性を持った本施設について、代表の名和晃平さんにお話を伺った。

photo by OMOTE Nobutada

この場で起こる、この場でしか起こらない、起こり得ないようなこと

SANDWICH 外観

SANDWICH 外観

&:SANDWICHのリノベーションを始めたきっかけを教えてください。

名和晃平:この場所を見つけたことがきっかけです。ここに入る以前は、淀と樋爪という二つのスペースを借りていました。しかし、たくさんのプロジェクトが同時に動くようになるにつれて手狭になり、より広い物件を探すことに。その頃、不動産屋が投函したチラシにたまたまここが載っていて、間取りが丁度と思い見に来たんです。元サンドイッチ工場というのも惹かれましたし、ロケーションも良かったので借りることにしました。


名和晃平さん

&:では現在のような形を、最初から構想していたわけではなかったのでしょうか。

名和晃平:そうですね。最初はスタジオと倉庫として使おうというくらいにしか思っていませんでした。その後リノベーションしながら、レイアウトやスタジオの使い方などを、知り合いの建築家たちとディスカッションしていく中で、今のような形になっていったんです。また、2009年にスペインのマドリッドにある建築家やデザイナー、アーティスト達が事務所やスペースを共有する「Studio BANANA」を訪問して、レクチャーや意見交換をした際に、いろいろなアイデアを貰ったことでクリエイティブ・プラットフォームとしてのSANDWICHという構想が段々と膨らんでいきました。ただ、今もまだ完成しているとは思っていないし、多分ずっと完成しないだろうと思うんですね。理想を設定してそこに向かって進めるというのではなく、使いながら出来上がっていくのがいいと考えています。

&:ではSANDWICH自体にコンセプトがあり、それに沿ってプロジェクトを選別しているわけではなく、自然に起こることをプロジェクトとして動かしていくような感じなのでしょうか。

名和晃平:周りから受ける影響をそのまま受け入れたり、受け入れなかったりしながら、舵取りをしているという感じです。まだ完全な青写真はないですね。


SANDWICHでのレジデンスプログラム
SANDWICHでのレジデンスプログラム

SANDWICHでのレジデンスプログラム風景
photo by OMOTE Nobutada
COPYRIGHT SANDWICH. ALL RIGHTS RESERVED.

&:大学機関などではなく、個人のアーティストが起点となって行われるこういった規模のプロジェクトは、日本、特に京都では今までになかったように思います。運営しながら、実際にどのような可能性を感じていますか。

名和晃平:まだスタートして一年も経っていないのですが、色々な人がここを訪れるようになりました。僕自身、様々なクリエイターが集まって来るような雰囲気を求めていますし、実際仕事の幅が広がり、刺激を受けて新しい化学反応が起こっています。この場で起こる、この場でしか起こらない、起こり得ないようなことが、次々と発生しているという点に可能性は感じますね。ある部分では僕のコントロールから離れていていますし、集まる人たちのエネルギーでSANDWICHという場所がもっているポテンシャルが引き出されてきたんだと思います。まだまだこれからも色々なことが起こる気がします。去年末には韓国からグラフィックデザイナーがレジデンスに来ていましたが、海外からのレジデンスプログラムが続いていけば、もっとインターナショナルな雰囲気になっていくと思います。京都というローカルな場所でありながら、世界中と「つながっている」状態で続けられたらと考えています。


どこにもないような場所にしたかったので、特にリノベーションのお手本になった場所はない

&:海外の施設をリサーチしたと伺ったんですけど、具体的にどういった施設を見学されましたか。

名和晃平:ここ数年、海外での発表が続き、ロンドン、ニューヨーク、ベルリンに滞在して活動していたことがあったのですが、その時に訪れた様々な施設が参考になっています。でも、SANDWICHのためにリサーチしたというわけではないですね。「こういうキャリア、スタンスの作家が、こういった場所でやってるんだな」という程度の見方でした。SANDWICH自体はどこにもないような場所にしたかったので、特にリノベーションのお手本になった場所はないです。

&:海外と比較して、日本での制作環境をどういった風に感じていますか。

名和晃平:作品が作りやすい環境にはあると思います。日本ほど細かく情報化されて材料が手に入りやすい国は、他を探してもなかなかないのではないでしょうか。制作スペースにしても、例えば関西だと本当に見つけやすいですね。

&:作品を作る上では、メリットが多いという印象でしょうか。

名和晃平:そうですね、僕はやりやすいと思っています。他の土地と比べて、一番スピーディーに作品が作れる。ただ、ニューヨークのSoHoやロンドンでは、ギャラリーとアーティストが住んでるエリアとの関係性がはっきりしていて、マーケットとアーティストのスタジオがうまく関係を保っているという印象があるんです。日本はそれがつながりにくいと感じます。

名和晃平さん

SANDWICH スタッフ作業風景(1F)

SANDWICH スタッフ作業風景(1F)

&:今京都に共同アトリエはたくさんありますが、SANDWICHのように、有機的なコミュニケーションが生まている場所というのは、ほとんどないような気がします。

名和晃平:同級生だけで運営しているところが多いからだと思いますね。同世代ではじめたとしても、続けていく人がいれば辞める人も出てくる。そこに入れ替わりで後輩が入ってきたりして、だんだん繋がっていくということが大事。そういったことを経て有機的な関係が出来上がっていくんじゃないでしょうか。5~10年くらいはかかると思いますよ。

&:京都でスタジオを運営している若手アーティストにとって、SANDWICHのケースは一つの指標になるのではないでしょうか。

名和晃平:僕もはじめてのことばかりだし、相当無理をしてやっているので、本当に維持できるかハラハラしながらやっています。だから良い例になるかはまだわからないですね。


&:以前「美大生に、卒業後アーティストのスタジオに入るという選択肢があればいい」というお話をしていましたね。

名和晃平:そうですね。それはとても大事だと思います。また、建築家の卵が建築家の事務所で下積みをするように、ものをつくっていくための実戦の場として、若い間にアシスタントや造形業を経験することも良いと思います。一人でやっているだけでは絶対に得られない情報量に身を晒すことになりますから。

&:名和さんは社会の中でアーティストの居場所を作ることを、常に意識しているように見えます。

名和晃平:京都造形芸術大学で教えているということもあって、「学生のために何かできないか」ということは常に考えています。学生に「作家がどうやって生きているのか」を見せることを授業にしているのですが、例えば彼らが僕のプロジェクトで制作現場に来て、刺激を受け「自分もこういうふうになりたい」と思ったとき、卒業後の選択肢が少な過ぎると思うんですよ。そういうこともあって、スタジオを共同で運営することの大切さは感じます。ロンドンや香港、ニューヨークもそうですけど、大学を出た後に共同でスタジオを運営している例はたくさんあります。大学を出てすぐデビューできる人もいますが、卒業後10年くらい熟す期間が必要な人もいるし、マイペースで制作していくべきだと思うんです。そういう意味では、いくつか選択肢ができる方がいいですよね。せっかくこれだけ美大生がいて、力を入れて創作活動をしてるのに、卒業したら即就職するか、アルバイトしながら制作する、の2択しかないというのは、面白くないですよね。

現代という時代、社会を半分傍観するような立場で、行ったり来たりしている

&:名和さんはアーティストとして、BEAMS、au、ユニクロなど、様々な企業とコラボレーションしてきました。積極的に社会とコミットしようしているように見えるのですが、現状の社会とアートの関係性、自身の作品と社会との関係性をどのように受け止めていますか。

名和晃平:今の社会に生きていて感じることや、社会に対する反応のようなものが作品として表れると思うので、それを伝えていくことは大事だと考えています。特に資本主義のルールに沿って作られた造形物、空間、クオリティが人間の感性にどういう影響を与えているのか。また、それがいいものなのか悪いものなのかということは、作品のテーマにもなっています。だから、作品をあえて商業ベースの空間に持ち込むということにも意義を感じます。例えば今、ショーウィンドウの仕事をしているのですが、ショーウィンドウは人が歩いているときに目を引けるかどうか、どれだけ多くの刺激を人に与えられるか、人の心を捕まえられるか、といった考えで作られています。それはギャラリーや美術館の展示とは違うんですよね。アートだと、個人的な感覚に引き寄せて制作しますが、ショーウィンドウは「できるだけ効率よく、多くの人に印象づける」という考え方です。もともとそういった「人の感性に影響を与える表現」を解明したいと思っていたんです。また、「宗教が世の中を支配していた時代に、宗教美術が担っていた役割」と「現代の資本主義と、それによって生み出された造形物の役割」が、どのように対応しているのかということも考えながら作っています。例えばウィンドウデザインの仕事の打ち合わせで、こちらが提案したことに対して企業側が「もっとこういう風にしてほしい」と意見してきたとします。それは資本主義のルールで磨き上げられた戦法やノウハウ、作法で、美術の観点からしたら全く異なるやり方だったりするのですが、そこに生じるギャップは面白いですし、できればそういった批評的な観点を表現に忍ばせたいと考えています。アートを社会化するという意識と同時に社会のシステムの中に入り込んで、体制の中からなにかを変えたり、批評することができないか、とも思っています。

iida Art Editions コンセプトモデル 名和晃平「PixCell via PRISMOID」photo by OMOTE Nobutada

iida Art Editions コンセプトモデル
名和晃平「PixCell via PRISMOID」
photo by OMOTE Nobutada
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SANDWICH 内観(2F)

SANDWICH 内観(2F)

&:色々なことに興味を持たれていますが、やはりアーティスト、美術家としての視点を大事にしているのでしょうか。

名和晃平:社会の中に完全に取り込まれて、そこから発想するのではなく、現代という時代、社会を半分傍観するような立場で、行ったり来たりしているという感覚ですかね。


&:最後にSANDWICHの、今後の活動について教えてください。

名和晃平:まず現在進行しているのは、レジデンスプログラムです。昨年末には韓国からグラフィックデザイナーが来ていたのですが、もうすぐノルウェーから2名、タイから6名、バングラディシュから6名が来る予定です。今後も「常に海外から数名がSANDWICHに滞在している」という状況を続けようと思っています。それと、最近SANDWICHのGRAPHIC TEAMと仕事をし始め、彼らに写真を撮ってもらい、それをグラフィックに落とし込んでいくということができるようになってきたので、もう少し柔軟に創作の幅を広く持ってプロジェクトを進めたいと思ってます。またSANDWICHのスタッフの実家でお米を作っていて、”サンドイッチ米”としてそれを少しだけ販売しようかという話もあります。ほとんど僕たちで食べちゃってますけど(笑)。あとはHOTEL SOLITUDEという、長野県野尻湖にあるホテル エルボスコで、アーティスト・イン・レジデンスを行うプロジェクトをやり始めたところです。自身の活動としては、今年の3月にニューヨークのジャパンソサエティで行われるグループ展に参加、6月に東京都現代美術館で個展があります。展覧会に向けてまだまだ作り続けないといけないので、これからの半年間、スタッフ一同含め、大変なことになるんじゃないかなぁと思います(笑)。

野尻湖ホテル エルボスコ 外観 photo by OMOTE Nobutada

野尻湖ホテル エルボスコ 外観
photo by OMOTE Nobutada
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SANDWICH 内観

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