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特集 場をつくる Vol.2

ULTRA AWARD 2010 ウルトラファクトリーによる次世代型コンペティション インタビュー ヤノベケンジ(ウルトラファクトリー・ディレクター、現代美術作家)

京都造形芸術大学(以下、造形大)の特殊教育機関ウルトラファクトリーが、2010年10月23日から11月7日の期間に開催したコンペティション『ULTRA AWARD』。
世界で活躍できる次代のウルトラアーティストを発掘、育成することを目的としたこの展覧会は、学生のものとは思えない高いクオリティーの作品が揃ったことで、訪れた人々に新鮮な衝撃を与えた。
今回のインタビューでは、現場教育を大学のカリキュラムに取り入れるという画期的な教育方法で、大学教育の変革を試みるウルトラファクトリーの教育理念。そして同機関の教育が実を結んだひとつの成果として位置づけられる『ULTRA AWARD』について、ディレクターのヤノベケンジさんにお話を伺った。

取材撮影:表恒匡/OMOTE Nobutada

大学内の制作室の1つというだけでなく、常識を超越したものが生まれてくる場所

& : まずはじめにウルトラファクトリーの機関概要をお聞かせいただけますでしょうか。

ヤノベケンジ : ウルトラファクトリーは2008年6月に、どの専攻の学生も使用できる、造形大の共通工房としてオープンしました。例えば絵画やデザインなど、専攻によっては立体物を制作するための環境をもたない学生もいます。ウルトラファクトリーは、そういった学生が立体物を制作でき、表現の幅と質を高める環境を整備するという目的で立ちあがりました。工房にはテクニカルな面でのアドバイスができるスタッフが5、6人常駐しており、設備としては、車や飛行機まで作ることができるほどのキャパシティーがあります。学生がプランを相談しながら、それを実現することのできる、正に夢のような工房なんです。また立体造形の設備だけでなく、コンピュータ機器なども備えているため、多彩な表現が可能です。

ウルトラファクトリー

ウルトラファクトリー


& : 学生はどういった条件でここを使用できるのでしょうか。

ヤノベケンジ : 安全ではない機械もあるので、この場所を使うには、ライセンスを取得するための講習を受けなくてはなりません。ライセンスを取得した学生のみ、自由に自分が作りたいものを作ることができます。溶接、樹脂塗装、木工などそれぞれの専門技術ごとに、安全講習、基礎講習、ステップアップするため講習などの段階があります。

& : 工房としての機能だけではなく、独自のカリキュラムも組んでいますね。どういった授業を行っているのでしょうか。

ヤノベケンジ : 中心となっているのは、ウルトラプロジェクトです。これは第一線で活躍するクリエイターをウルトラファクトリーに招いて、学生との共同作業を通して、技術のみならず、制作に向かう姿勢を伝える実践型プロジェクトです。クリエイターは、学校の課題をプロジェクトに持ち込むのでありません。美術館で展示する作品や、実際に流通するものをここで作るので、学生は実社会とアートとの関わりをそのまま体験することができるんです。僕自身は、現場教育が最も教育情報量が多いと考えています。ウルトラプロジェクトでは現場の仕事に携わる中で、第一線で活躍するクリエイターの技術や思考を生身で感じることができるんです。また、クリエイターがどのように交渉をしながらプロジェクトを進めていくのか、といったプロセスも見ることができる。こういった体験をすることで、「どこまで突き詰めて作品を作っているか」という意識をも共有することができるんです。学校の課題の範囲では体験できないようなことが、ここでは体験できます。

ヤノベケンジ

& : ウルトラプロジェクトに学生が参加するには、どのような手続きが必要なのでしょうか。

ヤノベケンジ : プロジェクト毎に説明会を開催して、希望する学生に応募してもらいます。その後、面接とレポートにより選考するという流れです。学科で授業を行う場合、普通は全ての学生に対して平等に授業を行い、単位を与えないといけないのですが、ここで行われることはプロフェッショナルな仕事です。学生にとってはかなり厳しいと思いますが、モチベーションや実力が満たない学生は、選考に通過しなかったり、途中でプロジェクトから下ろされたりします。

& : すべての専攻の学生が応募できるということですが、実際に立体造形専門以外の学生も参加しているのでしょうか。

ヤノベケンジ : 油絵専攻や、グラフィックデザイン専攻の学生が、ウルトラプロジェクトでは溶接の作業を行っているということもあります。彼らの多くは第一線で活躍するアーティストの姿勢を身に付け、今度は自分のフィールドでそれを活かしています。アーティストになりたい学生ではなくても、すべての学生が共通して、もの作りの姿勢を学べる場所なのではないでしょうか。


& : ウルトラプロジェクトとして持ち込まれたヤノベさんのプロジェクトを見ても、革新的な作品がここから生まれていることがわかりますね。

ヤノベケンジ : ウルトラというだけあって、火を噴くドラゴンや、稲妻発生装置など、アートの常識を覆すクリエイティブなものが生まれています。ウルトラファクトリーは大学内の制作室の1つというだけでなく、常識を超越したものが生まれてくる場所なんです。そういった場所では普通ではない人が生まれてくる。そういう理念に基づいて運営しています。

& : ウルトラプロジェクトの他にも、画期的なカリキュラムがありますね。

ヤノベケンジ : 作品を制作するだけではなく、プロジェクトを進めるうえで発生するデザインワークにも、幅広く対応していけるように、ウルトラファクトリー内にクリティカルデザインラボというデザイン部を作っています。ここではデザイン教育を通年で行っています。また、プロジェクトや展覧会をどのようにプレスし、いかにプロデュースしていくかということに取り組みながら、記録・広報・ワークショップなどを通してマネジメントを行うための、ウルトラファクトリープレスというカリキュラムもあります。ここではクリエイティブな関係を築き上げ、環境を作りあげていく人材を育てています。コクヨデザインアワードやTokyo Midtown Awardなど、学外でのデザインアワードに挑戦し、受賞するなど結果を残す学生もでてきました。ただ単に立体造形物を制作するだけの工房ならば、アーティスト志望の学生しか受け入れられません。ウルトラファクトリーは、クリエイション部、デザイン部、マネジメント部の3本柱で運営しながら教育することで、学生の多様な将来の希望に対応しています。才能を総合的に発掘できるような、一種のエリートを養成する、特殊教育機関として設定されているのです。

ウルトラファクトリー(制作風景)

ウルトラファクトリー(制作風景)


「若者たちがどのように  変わっていくか」ということに  大きく関与できる

& : 先日ART ZONEにて、第一回目の『ULTRA AWARD』が開催されました。この展覧会はウルトラファクトリーが今まで行ってきた教育の成果として、大きな意味を持っていたように思います。

ヤノベケンジ : ウルトラファクトリー創設後、最初の2年間はウルトラプロジェクトが中心となって牽引してきました。その間多くの学生が関わってきたことで、彼らがウルトラスチューデントになって世の中に出ていく準備が整ってきたんです。そういった背景もあり、3年目を迎えた今年から学生を対象にした公募選抜展である『ULTRA AWARD』を始動しました。審査員に第一線で活躍するアーティストやキュレーターなどを揃え、審査員の評価によって、学生たちを覚醒させるという狙いがありました。

『ULTRA AWARD』会場風景(1F)

『ULTRA AWARD』会場風景(1F)
画像提供:ウルトラファクトリー
photo by Tomas Svab


& : 他のコンペティションと異なる点がいくつもありましたね。

ヤノベケンジ : 運営側はただ作品を選ぶだけでなく、制作プロセスにまで関わってサポートし、細かなコーチングを行いました。普通のコンペティションは作品のアイデアや、すでに完成した作品だけを評価することが多いのですが、制作プロセスから関わることで、「若者たちがどのように変わっていくか」ということに大きく関与できるのではないかと考えたんです。

& : 実際に展示を終え、出品者たちが変わったと感じましたか。

ヤノベケンジ : 大きな変化があったと感じています。『ULTRA AWARD』に向けてのプランと、各作家の過去の資料を元に選考したのですが、プランがおもしろいものを優先しつつ、「何を考えてものを作ってきたか」、「次はどういった展開を期待できるか」といったことも重視しました。また最初に提出したプランのまま制作させるのではなく、面談をするなどコミュニケーションをとりながら、本質的な部分をさらに引き出せるように指導しました。技術的にもウルトラファクトリーのテクニカルスタッフにより、本人がもっている以上の実力を引きだせるようサポートしました。こういったプロセスは効果的だったのではないでしょうか。

『ULTRA AWARD』会場風景(2F)

『ULTRA AWARD』会場風景(2F)
画像提供:ウルトラファクトリー
photo by Tomas Svab


& : 今回応募対象は、学内生および卒業後2年以内の卒業生でした。この条件にはどういった理由があったのでしょうか。

ヤノベケンジ : 卒業して作家を続けようとするとき、2年というのは続けていくかどうかの見極めの時期ではないかと思っています。そういった理由からの期間設定です。

ヤノベケンジ

& : 結果的に幅広い学年、年齢から選ばれましたね。

ヤノベケンジ : 出品作家は学部の2、3、4回生、博士課程、卒業生各1組、計5組でした。アウトプットとして、『ULTRA AWARD』に出品するという前提があったので、「5つの作品がどのように関係するか」というキュレーションをしながら審査をしました。今回落選した応募者も、組み合わせによってはチャンスがあったということは言っておきたいです。


& : 出品作家はやりがいと同時に、大きなプレッシャーを感じていたのではないでしょうか。

ヤノベケンジ : 自分で展覧会を開催しても、到底見に来てくれないような人たちが審査員でしたし、ウルトラファクトリーによる最初のプレゼンテーションとなる展覧会だったということもあって、出品作家の緊張感は尋常ではありませんでした。運営側としては「第一回目に選ばれて、各出品作家がどう立ち振る舞うか」といった、メンタル面もコーチングしながら、「各作家の隠れた才能をどこまで引き出せるか」ということに努めました。今までその学生の作品を見てきた教員や、友人の学生たちも驚きをもって結果を受け止めたと思います。

& : 最優秀賞は諫山元貴(いさやまげんき)さんが受賞しました。映像によるシンプルな物質の描写にも関わらず、質感が時間を追って豊かに変化していく様子が強く印象に残る完成度の高い作品だったと思います。選ばれた理由を教えていただけますでしょうか。

ヤノベケンジ : 審査は諫山の作品と、鏡像で写した階段を立体物として制作した小宮太郎の作品とで揺れたんです。小宮はそれまでも鏡面というモチーフを扱っていたものの、こぢんまりとした内証的なものになりがちだったのですが、あの作品で大きく飛躍しました。アーティストにとっては、その場所や環境を味方につけることはとても大切なのですが、あの作品で彼はART ZONEという空間のもつ可能性を、200%くらい引き出すことに成功したんです。また、一週間くらい前のプラン変更という、追い詰められた状況の中で、どんでん返しを演じることができたという意味でも、成長率は最も高かったのではないでしょうか。諫山は今回のような水の中で溶解していくものを撮影するという映像作品を、これまでにも作っていたのですが、本作でクオリティーが大きく上がりました。あの作品ならばどんな国際展に出しても恥ずかしくないですし、安定した力とクオリティーの高さを備えたアーティストであるという理由から諫山に軍配があがりました。

小宮太郎≪veneer≫(a spiral staircase)

小宮太郎≪veneer≫(a spiral staircase)
画像提供:ウルトラファクトリー
photo by Tomas Svab


諫山元貴≪Χρόνος/Κρόνος(クロノス/カイロス)≫

諫山元貴≪Χρόνος/Κρόνος(クロノス/カイロス)≫
画像提供:ウルトラファクトリー photo by Tomas Svab

『ULTRA AWARD』審査風景

『ULTRA AWARD』審査風景 画像提供:ウルトラファクトリー

& : 審査発表後、諫山さんに「グランプリは名誉なことだけど、お前はもう地獄の扉を開けてしまった。このまま一生この道を進んでほしい。もし途中で辞めたら俺が銃殺する」とおっしゃったそうですね(笑)。

ヤノベケンジ : そうですね(笑)、クリエイターとしてトップを走り続けるということは、ある意味、一生地獄の苦しみを味わうくらいに大変なことです。しかし同時にそういった状況は、自分自身を上に押し上げていける、幸福な状況であるとも言えます。僕は第一回目のキリンアートアワードで大賞を貰ったことが、アーティストとして生きていくうえでの、大事なきっかけだったんです。24歳の時に受賞してからずっと走り続けなくてはいけない状況を強いられたわけですが、諫山もこれから自分の前に立ちはだかるハードルを、より高くしながら越えていかなければいけない。僕の経験上「その覚悟はしておけよ」ということを伝えておきたいと思ったんです。でも「銃殺する」というくらいの厳しい目が、周りにあることは大事なんですよ。「あの人が見てくれているから頑張る」という強迫観念が、一皮も二皮も剥けるような成長を遂げるきっかけになるのではないでしょうか。


どんな職業に就くとしても、社会に適応できる能力を備えてもらいたい

& : 会場にて配布するための冊子制作や、WEBサイトを用いたリアルタイムなメディア連動など、ドキュメント制作や広報面も充実していましたね。

ヤノベケンジ : 展覧会のプロセスをドキュメントしたり、それをどういう風に伝えていくかということもプロジェクトにおいて大切です。WEBへの展開や冊子など、広報や記録に関してはウルトラファクトリープレスの多田智美が先導しつつ、学生が中心になって作っていきました。デザイン物も、主な監修はクリティカルデザインラボの原田祐馬が行っているのですが、実際には学生が制作しています。クリティカルデザインラボは広報物やサインのデザイン、展示構成で、オフィスはマネジメントで関わったりと、ウルトラファクトリーのすべてのプロジェクトが結集して、バックアップしながら『ULTRA AWARD』を作りあげました。

『ULTRA AWARD』広報物

『ULTRA AWARD』広報物


& : 展覧会のカタログ発行を、来年予定していると伺いました。

ヤノベケンジ : 来年の2月末完成予定です。次回の『ULTRA AWARD』を来年度に予定しているのですが、2月末には応募要項も準備できる予定です。

ヤノベケンジ

& : 最後にお聞きしたいのですが、ヤノベさんは『ULTRA AWARD』を経験した学生、そしてウルトラファクトリーに関わってきた学生に、どのようなアーティストになってほしいと考えていますか。

ヤノベケンジ : クリエイターを輩出するということは1つの重要な結果ですし、もちろん国際的に活躍できるアーティスト、デザイナーを育てたいとも思っていますが、それだけがすべてとは思っていません。ここにいる学生には、作品を作る思考や技術だけに特化してほしいわけではなく、「どんな職業に就くとしても、社会に適応できる能力を備えてもらいたい」という思いはジェネラルにあります。僕は物事を進めていくうえで、責任を負うということが現実にどういうことか、ここで学んでほしいです。全員がアーティストになれるとは僕自身思っていませんが、ウルトラファクトリーは妥協しない強い精神力をもって、社会に出ていくための準備ができる場所ではないかと思っています。だから学生が、社会においてどんな状況でも、自分の能力を発揮できる才能を引き出してあげたい。こういった状況を作るためには、この場所が常に人が出入りしながらエネルギッシュにものを作っている、世の中に今までになかったような場所でありつづけないといけないと思います。


ウルトラファクトリー

どんな職業に就くとしても、社会に適応できる能力を備えてもらいたい

画像提供:ウルトラファクトリー

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