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特集 アートシーンの現在 vol.1

インタビュー アートフェア京都 石橋圭吾×井村優三×森裕一 聞き手:小吹隆文

京都に立ち返って全国に発信していく

小吹隆文(以下、小吹) : 本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。まず、「アートフェア京都」開催に至る経緯をお聞きしたいのですが。
石橋圭吾さん
石橋圭吾(以下、石橋) : 発案者である私からご説明します。私どものニュートロンは昨年東京に出店して、京都で育った作家を順次東京に投入しています。京都にはアートマーケットがないと以前から聞かされていて、それはある程度仕方ないと思っていました。しかし、不況の影響もあるのでしょうが、東京でもコマーシャルの動きは乏しいように感じられました。もちろん海外にまで展開している画廊は違うのでしょうけど、国内マーケットだけで考えたら東京といえども天井が見えてしまうのです。一方、京都には活躍している作家も多いですし、地域としても注目されているので、今はむしろ京都に立ち返って全国に発信していく方が効果的ではないかと思うようになりました。京都でやれることがまだあるのではないかと考えているのです。

小吹 : アートフェアではありませんが、「京都アートマップ」など、現代美術系の画廊が結集する催しは既に行われていますよね。
石橋 : 私も幾つか参加しましたが、既に構築された枠組みなので気を遣ってしまうというか、動きにくい面もあるんですよね。だったらまず自分が飛び出して、まだお付き合したことがない画廊や大先輩もおられますし、そんな方々を巻き込みつついろんな仕掛けを作り出すことで、京都のアートマーケットを開拓できないかと考えたのです。その構想については井村さんと森さんには早い段階から相談をしていました。
井村優三さん
井村優三(以下、井村) : 最初に話をしたのは1年ぐらい前だと思います。石橋君から「アートフェアをやりましょう」と連絡がありました。京都でアートフェアといえば、工芸や日本画の画商が主になって開催しているものがあるけど、現代アートがメインのものはなかったでしょう。でも、僕も必要だとは思っていたし、森君も同じ気持ちだったんじゃないかな。
森裕一(以下、森) : 本当、おっしゃる通りで、京都でアートフェアをやれば文化遺産や観光、食事などフェア以外の面でもアピールできる要素が多いので、面白いだろうと思ってはいたんです。でも、自分の画廊の活動もあるので、実際にやるのはとても難しい。そんな中、石橋さんから「アートフェア京都」の提案を受けて、すごく良いことだと思いました。

小吹 : 画廊との出展交渉はどのようにされたのですか。
石橋 : 基本は私が一人で行いましたが、もちろん井村さんと森さんの力もお借りしました。
井村 : 私たちがやったのはお声掛け程度ですけどね。
石橋 : おかげで京都の主だった画廊には参加していただけましたし、東京や名古屋からの参加画廊もあります。参加画廊・企業は全部で35です。

アートフェアをもっとパブリックなものにしていきたい

小吹 : 会場をホテルモントレ京都にした意図は?
ホテルモントレ京都

ホテルモントレ京都外観 (c) Hotel Monterey Kyoto

石橋 : ニュートロンがホテルモントレ京都のすぐ近くにあるので、従業員の方がよく食事に来られるんです。ニュートロンのスタッフも東京出張の際はホテルモントレを利用することがありますから、ホテルの雰囲気も知っていました。ビジネスホテルよりランクが上だけど高級ホテルよりはカジュアルという絶妙なポジションや、立地、規模の面でここが最適だろうと思ったので駄目元でプレゼンしたら、意外なほどすんなり了承がいただけました。実はホテルモントレの会長さんは印象派などのコレクターで、ホテルの中にもルノワールの絵画などを飾っておられます。元々アートに対する理解が深い企業だから、我々の提案にも理解を示してくださったのだと思います。

小吹 : 講談社の『へうげもの』や京都の便利堂が参加しているのもユニークですね。
石橋 : 他にも大阪の「books hop」が、画廊が出版しているエディション本の販売を行います。実はもっといろんな企画やアイデアがあったのですが、実現できたのがこれら3つだったということです。企画物や企業出展的なものを取り入れて、アートフェアをもっとパブリックなものにしていきたいという気持ちを持っています。
小吹 : あと、「アートフェア京都」で興味深いのはデポジット制を採用していることですね。入場料2000円と強気の設定ですが、ただし作品を購入された場合は入場料分が割り引かれるという。
石橋 : これも私の提案です。京都は学生が多いので、普通にイベントを行ったら学生ばっかり来ちゃうんですよね。学生は熱心で良いのですが、アートフェアは本来売買や商談をするのが本筋です。イベント化して大混雑した結果、お客様もこちらも疲れて、その中に混ざっている顧客が買い物どころじゃないとなったら本末転倒ですよね。だから入場料はちょっと高めに設定して、入場者数は多少減るかもしれないけど、2000円支払ってくれた方にはその分を使う権利があるということにしました。
森裕一さん
森 : この辺は難しいところですよね。でも、一つの実験としてはありかな。他のアートフェアとの差別化にもなりますし。 井村 : うちはホテルのアートフェアは初めてなんだけど、そんなに混雑するの? 森 : 元々ホテルの客室は大人数を前提としてないし、客室のドア周辺が狭いから渋滞が起きやすいんです。お客さんがなかなか客室に入れなくてしびれを切らすようならマイナスですよね。井村 : 学生さんにとって2000円は高いと思うけど、一度にいろんな作家や画廊と出会える機会はなかなかないし、作家志望の子には勉強になるのではないでしょうか。自分と同年代の子の作品に値段が付いて売り出されているのを見たら刺激的でしょう。「よーし、俺も、私も」って気になるかもしれない。だからといってファイルを持ち込んだら簡単に話が進むとか、そういうことはまずないんだけど。でも、作家志望の学生さんなら、リクルートの会社説明会みたいな感覚でアートフェアに臨むというのも有りかもしれないですね。

10年先までを視野に入れて活動を続けて行く

小吹 : 関西でアートフェアといえば、以前から大阪の「ART OSAKA」があって、昨年は神戸で「アートマルシェ」が開催されました。そして今年は「アートフェア京都」が開催されます。また、1週間遅れで「超京都」という別のアートフェアも行われますよね。正直言って関西にこれだけのアートフェアは必要なのかという気もします。皆さんは「アートフェア京都」のどこに勝算を感じておられるのでしょう。
井村 : 勝算、……僕はそこまで考えてないですね。むしろ「アートフェア京都」をやることで、今後どんな広がりが出てくるのかに興味があります。先ほど京都にはアートマーケットがないという話がありましたが、そんなことはなくて、実はコレクターもおられるんですよ。でも、その多くが近代美術止まりなんです。そんな人たちが地元で行われる「アートフェア京都」を見に来て、現代アートにも興味を持ってくれないかなあ、と。
森 : 地元で現代アートのフェアを行うことで古美術から現代アートに入って来る人もいてほしいですね。京都という名前は世界で通用します。私は海外のアートフェアにも参加していますが、ニューヨークでも北京でも上海でも、日本の都市といえば東京の次は京都ですよ。海外の人でも間違いなく知っています。少し前の話ですが、マシュー・バーニーさん、ビョークさんが京都に来た時は私が案内をしました。フランチェスカ フォン ハプスブルクさんが来られたこともあります。そういうことって京都だからあり得るんです。そのポテンシャルを考えれば、京都で現代アートフェアを行うことは決して荒唐無稽(こうとうむけい)ではありません。
井村 : 初めから何かが起こる訳じゃないし、続けていくことが大事ですね。
森裕一さん 井村優三さん 石橋圭吾さん
石橋 : 私が考えているのは、毎年何らかのイベントを行いたいということです。とりあえずアートフェアから始めますが、最終地点は別のものになっているかもしれない。今回やってみて、きっと反省点が出てくるだろうから、それを生かして次のステップに進んでいく。そうやって、少なくとも10年先までを視野に入れて活動を続けていくことで、京都のパブリックイメージの中に現代アートを刷り込んでいければと思っています。それができれば、現代アートをいろんな産業や観光とフィットさせることもできるし、京都の中での構造改革、ひいては日本における京都のポジションさえ変えられるのではないかと考えています。大げさに聞こえるかもしれないけど、私はそこまでやってみたいです。

森 : 以前調べたんですけど、パリのポンピドゥーセンターに1日当たり何人観客が入っているのか。1977年の開館から1995年までで約1億5000万人が入場しています。日割りしたら1日約2万5000人ですよ。経済面でも、国家のステイタスの面でもすごい効果ですよね。文化を国家戦略として位置付けることの重要さがよく分かります。
井村 : 京都には連綿と続く文化遺産があるのに、現代だけが抜けている。これだけの国際都市なのに現代美術館がないんですよ。もし金閣寺から現代アートまでを一本の線で繋ぐことができれば、すごい力になるのではないでしょうか。しかもそれは多分、京都にしかできない。
森 : そこの所は行政の方にも分かってほしいですよね。
小吹 : なるほど。「アートフェア京都」は単なるイベントではなく遠大な夢に向けた第一歩である、というところでしょうか。今日はどうもありが とうございました。
ホテルモントレ京都

(c) Hotel Monterey Kyoto

アートフェア京都
[会期] 2010年5月7日(金)・8日(土)・9日(日) [時間] 11:00 - 19:00
[会場] ホテルモントレ京都 4階客室 [入場料] 2,000円 (3日間通し入場可) ※デポジット制
[主催] アートフェア京都実行委員会 [共催] ホテルモントレ京都 [後援] 京都市、京都新聞社
[公式ウェブサイト] http://www.artfairkyoto.com/


インタビュー/文 小吹隆文
関西を拠点に活動する美術ライター。詳しくはブログ「小吹隆文 アートのこぶ〆」を参照。
http://blog.livedoor.jp/artkobujime/


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