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「耳を澄ます - 更級日記ⅱ」

 こんにちは、原 摩利彦です。酷暑の日が続きますね。夏バテてしまいそうですが、今は僕の組んでいるユニットrimacona(リマコナ)の新作のレコーディングとミックスを連日行っています。これは秋頃発表できると思います。
 

 さて、前回に引き続き、『更級日記』の音を聴いていきたいと思います。今回は、東国から京都までの旅の後半部分から取り上げます。作者は途中、体調を崩し、寝込んでしまうこともありますが、京都を目指します。


「二むらの山の中にとまりたる夜、大きなる柿の木の下に庵(いほ)を造りたれば、夜一夜、庵の上に柿の落ちかかりたるを、人々ひろひなどす。
(二村山の山中に泊った夜は、大きな柿の木の下に仮屋を作ったので、一晩じゅう、小屋の屋根に柿の実が落ちるのを、人々が拾ったりしていた。)」(原文*1) (現代訳*2)


 ここで聴こえる音は、柿の実が落ちてきて屋根に当たる音、それから実を拾う人々の足音や声などでしょう。この屋根に当たる音がどれくらいの間隔で落ちてきたのか、またどういった音だったのか(例えば奇妙な音であった等)は表現されてはいません。柿の実はずっしりとしていますし、また大きな柿の木ということで比較的大きめの音で、どっしりとした音が鳴っていたのかな、と想像します。
 一読したときには、柿の実や人々の音を、小屋の中から聴いているのを想像します。しかし、より自由な想像をするのであれば、小屋の中だけでなく、外で聴く音も考えられるのではないでしょうか。作者も他の人たちと一緒になって、外に出て柿の実が落ちてくるのを待ち、落ちてきた音に喜び、拾っていたかもしれません。さらにこの想像を採用するのであれば、作者が床についてから尚落ちてくる柿の実が屋根に当たる音は、作者にはまた違った音に聴こえていたでしょう。


 『更級日記』は作者の後年の回想によるものです。そこにある事柄はすべて、その印象の強さに大小はあれど、作者の記憶に残っているものです。柿の話は、このたった一文しか書かれていません。しかし、なぜこのたった一文の記憶が書かれなくてはならなかったのでしょうか。それは、単にその時、彼女たちの一行が空腹であった、もしくは、その柿がとても美味しかったということだけが理由でしょうか。柿の実が落ちてきて仮の小屋にあたる音は、この文に明らかに書かれているわけではありません。それは、「落ちかかりたる」という言葉の裏にあります。しかし、その音こそが、この些細な柿の話を、作者にとって忘れがたいものにしていたのではないでしょうか。この柿の音こそが、この記憶の核となっていると思います。


 この暑い夏に柿の話ばかりしてしまいました。


 原 摩利彦
 

*1,2 原文および現代訳は、『新編日本古典文学全集 (26) 』藤岡忠美・犬養簾・中野幸一・石井文夫 校注・訳者 (小学館、1994)から引用しています。


*3 竹西寛子『土佐日記・更級日記』(学習研究社、1981)に収録。

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