アーティスト紹介

田中真吾

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INTERVIEW WITH TANAKA SHINGO 2009.11.10

作品について 自分が火に何を見ることができて、どういうアプローチができるのか

&ART(以下、&) : 田中さんは一貫して火を用いて作品を制作しており、現在はパネルなどに焦げ跡を残す技法で制作されていますね。作品の制作プロセスをお教えいただけますでしょうか。
田中真吾さん
田中真吾(以下、T) : 直接画面にバーナーで火を当ててしまうと、淡白な色になって奥行きがなくなってしまうので、パネルの上に鏝(こて)で漆喰(しっくい)を何度か塗り、乾いた後に、パネルの上で画用紙を燃やしています。学生の頃に色々な物を燃やしてみたんですけど、画用紙を積層したものを燃やしてできる火の熱は、一番きれいに焦げ跡が残るんです。今年の9月、ここ(studio90)で個展をした時に、展示した時の作品は、画用紙をちぎったり、くしゃくしゃにして燃やしました。そうやって凹凸を作ることで、画面に接地しているところは焦げて黒くなり、画面から少し浮いているところは、間に空気が入るので、グラデーションがかったような仕上がりになります。色々な大きさの紙を配置して燃やし、焦げ跡を見て、次どこに置くかということを考えて、また燃やすという流れで制作しました。
& : では、ある程度形は自由にコントロールして作れるのですか。
T : コントロールできない部分もありますが、慣れてくればだいぶコントロールはできます。

& : 現在のような作品の形態に辿り着いた経緯をお教えください。
上:trans (vector) 展示風景 下:trans (cube #3) 部分

上:「trans (vector)」 展示風景 2008
下:「trans (cube #3)」 部分 2009

T : 大学3回生くらいから、意識して火を使い出したんですけど、その頃は、人の形の焦げ跡を組み合わせて桜の木を描いたりと、火にメッセージ性を持たせていたんです。火を浄化や破壊のメタファーとして使っていたんですが、大学院に入る頃に、そういったメッセージ性を省き始めました。
火を純粋に“目の前にある現象”として見た時に「自分はどういうアプローチができるんだろう」と考えた結果、イメージを抜いて抽象的な表現にしました。 そうすることによって画用紙を燃やす技法では“純粋に火の持っている熱が支持体に与える効果”を、火の写真を撮影した作品では“火の形や光”というものを切り取って見せようと思ったんです。 それは火を要素別に削いでいくような作業だと思うのですが、それが今の作風になっていると思います。
& : そうすると「現象としての火」というところがテーマになってくるのでしょうか。
T : そうですね。「自分が火に何を見ることができて、どういうアプローチができるのか」というのが今の課題です。

「40分の中にすべてがあるというコンパクトさ」はすごく魅力

& : 田中さんは現在ここstudio90(京都市南区にあるアトリエとギャラリーを併設した施設)を、京都精華大学(以下、精華大)在籍時に同期だった、泉洋平さん、森川穣さんと共同で運営していますが、この場所をはじめた経緯を教えていただけますでしょうか。
「火に照らされた闇」展示風景

「火に照らされた闇」 展示風景
photo by OMOTE Nobutada

T : 大学院を卒業する時、アーティストとしての活動を続けるために、しっかりとした制作スペースがほしいと思い、共同の制作スペースとしてこの場所を借りようと考えたんです。このスペースは4人で借りるのがちょうどいいサイズで、今の3人はタイミングが合ったのですが、あと1人がなかなか見つからなくて…。そこで、「最後の1人分のスペースをギャラリースペースにしたらどうか」という話をメンバーにしたら、他の2人も乗ってくれたんです。展示スペースがあれば、作品を壁面にかけて見ることができますし、箱に合わせて作品を考えることもできます。 あとは、当時卒業して作家を続けていくときに、作品を発表する場として、ギャラリー、美術館ということしか思いつかなかったんです。貸ギャラリーでやるのもお金がかかるので「続けられるのかな」と思っていて…。この狭い選択肢がすごく嫌だったので、ギャラリーで自分たちも展示しつつ、色々な人を外から呼んで展示してもらおうと思ったんです。 ギャラリーを作って、外から入れ替わり立ち替わり人がアトリエに来てくれるというだけで、開放的になれると思い、「やってみるしかない」と思いました。

& : 田中さんは現在お住まいも京都ですが、生活していて感じる街の魅力はなんでしょうか。
T : 自宅が修学院で、アトリエが久世なので、京都の市中では、“上と下”、“端と端”なんですが、その間がだいたいバイクで40分くらいの距離なんですよ。いつも中心地を縦に突っ切る感じで走っているんですけど、「40分の中にすべてがあるというコンパクトさ」はすごく魅力だなと思います。
& : 京都で行われているアート、活動しているアーティストについてどのような印象を持たれていますか。
T : 精華大の学部の時の、僕と同期の卒業生が、京都に残って作家活動を続けている割合がすごく高いんです。それはすごく刺激になりますし、ヤマガミユキヒロさんや表恒匡さんなど、ちょっと上の世代の精華大の先輩たちが、活発に活動をされている姿は、指針になりますね。
田中真吾さん

速度に対して自分がどういう風に関わっていけるのか

& : 人によって様々な捉え方があると思いますが、田中さんにとって「社会」とはどのようなものでしょうか。
T : 初めにお話ししたように、現在は作品からメッセージ性や社会性を省き、抽象的で個人的なものとして捉えているので、作品の中に直接社会性を見せているわけではないのです。ただ、身の回りもそうですし、メディアなどで見る社会などに対しても、非常に速度を感じていて…。それは加速度的に速くなっていて、「そういう速度に対して自分がどういう風に関わっていけるのか」ということは考えています。僕の制作は、時間がかかりますし、“ものを作る”ということは、速度とは対照的なものだと思っています。作品を作ることは速度についていくのでなくて、「ついていけないなりに、自分はどのように関わっていくのか」ということを考えさせてくれるようなものなんじゃないかなと思います。

& : 田中さんはどのような人に自分の作品を見てほしいですか。
今年の8月に函館で“ハコトリ”というグループ展に出品した際に現地で公開制作をしたんです。海と山に囲まれた元漁港にあるスペースで、廃材を燃やして描いたんですけど、そこで現地の幼稚園児や漁師さんなどが2、30人見に来てくれたんです。 あまり深くコミュニケーションしたわけではなかったのですが、僕が制作している姿を見て園児たちがすごく喜んでくれて、幼稚園に帰って僕の描き方を真似してくれたり、作品に使用した廃材の持ち主や、それに思い入れを持っている漁師さんと話をしたことで、気付くことがたくさんあって…。それは今までにない経験でした。 今までは「どういう人に見てほしい」という対象のイメージはなく、見に来てくれた人が喜んでくれたり、「何かを発見してくれればいい」、という意識でやっていたんですが、そういう人たちにも見てもらえるような活動をしていきたいとは思っています。

現地の人とコミュニケーションをしながら作っていくようなプロジェクト

& : studio90の展示の予定はありますか。
T : 来年の1月に運営メンバーでもある泉君が展示予定です。あとは同じく運営メンバーの森川君が2月に京都芸術センターで展示をするのですが、その関連で何か考えているみたいです。
& : 今後どのようにご自身の活動を展開していきたいですか。
T : “ハコトリ”での廃材を燃やした作品での、「燃やしたものにこびりついている歴史や記憶」というアプローチが僕の中で新しかったので、現地の人とコミュニケーションをしながら作っていくようなプロジェクトはしていけたらと思います。そういうプロジェクトを進めていく一方で、今までのような“アトリエに籠(こも)っての制作”というのも、同時に行っていければ、もっと色々なことが見えてくるんじゃないかな思っています。
& : 先ほど「作品から社会性を省いている」とおっしゃっていましたが、燃やす対象にこびりついている歴史や、それらを通して現地の人と関わることって、すごく社会性が強いような印象がありますけど…
T : そうなんですよ(笑)。昨年までメッセージ性や既成概念を省いた状態で、純粋に火をテーマにして制作してきたんですけど、“ハコトリ”やstudio90での展示での体験を通して“記憶”、“思い出”、“人類の歴史”などを作品にフィードバックできたことで、少し成長できたと思っています。

& : 火をどのようにコンセプトに位置づけるかというよりも、火と向き合うことで、田中さんの中にどのようなテーマやメッセージが蓄積されているのかを探っている時期のように見えますね。
T : そうですね、ずっとそうですし、この先もたぶんそうなんだろうな、と思いながらやっています。火は次々と新しいことを見せてくれます。火と向き合っているというのも、もちろんそうなんですけど、それを通して自分と向き合っているという部分もあります。
田中真吾さん


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