& : 「the world turns over」での風景と、「blooming」などの人物を描いた作品では別のアーティストかと思うくらい差があるように感じますね。
N : 自分の興味の対象が人物から風景に写ったというのがあるんですけど、モチーフが変わっただけで、見え方は同じだと思っています。例えばずっと前に描いた「WATERING」のシリーズでも、最近の「the world turns over」でも、「水によって、ものが形を変えている」という部分は共通していますし、実際に作品から見えてくるものや、その作品で「描きたいもの」は近いので毎回極端に違うとは思っていないですね。
& : 中比良さんが「描きたい」と思うきっかけはなんでしょうか。
bird eyes No,1 2006
N : その時その時で変わるんですけど、日常の中の自分の感情からはじまることが多いです。例えば水に惹(ひ)かれたのは、考え事などをする時に水面を見ている時が多くて、自分が日常生活の中で周りにあまり溶け込めていないと感じた時に、「水に映った時の全てが一体化する感じ」が自分とリンクして感じたのがきっかけです。「bird eyes」のシリーズだったら、自分の視野が狭くなっているような気がした時に、鳥みたいに高いところから、色々なことを見たいと思って描きはじめました。まず最初に自分のネガティブな感情があって、それをどうポジティブな状態にもっていくかというので「こういうイメージにつなげたら自分の気持ちが救われるんじゃないか」というところに行きついて、それを表現するためのイメージを集めてきて描くという感じですね。
N : 「映る」というここと、「ものの形が変化する」ということですね。小さい頃とかお風呂に入っていて、水の中の手を水面に近づけた時に、手がすごく小さく見えたのが、すごくおもしろいなと思ったんですが、「水によって自分の形も変わっていくような感覚」や、「自分の体なのに自分の身体じゃない」という感覚はすごくおもしろいと思います。あとは単純にキャンバスというのは平面だから、それと「水面という平面」がリンクしやすかったりします。水を描くときは「キャンバス全体が水」と思って描くことが多いですね。
& : 鴨川のカップルを描いた作品がありましたが、あれは実際に鴨川で描いたのでしょうか。
N : あれは鴨川で撮影した写真をもとにして描きました。基本的に風景を描くときには、最初に描きたいイメージを走り書きみたいに描いて、それに沿った写真を場所へ撮影しに行って、何枚か撮った写真の中から最もイメージと近いものを選んで、その写真から情報を拾いながら描きます。
& : あの作品では川は描かれていないですよね。
N : あの時は「人によって風景が見えてくる」という絵を描きたかったんです。全く何もない真っ白な空間なのに、人がいることによって、情景が見えてくるような。あの絵をパッと見れば京都に関わりのある人ならば、「鴨川の絵」ということに気付いてくれたので、まさに狙い通りでした。できる限りの情報をはぎ取って、「人がいる配置や動きだけで鴨川という場が見えてきた」というのを描きたかったんです。
& : 鴨川以外にも、京都で気になっている風景や、好きな風景はありますか。
N : この前「the world turns over」で描いたんですけど、宝ケ池はすごく良かったです。どうしても池の写真がほしかったのではじめて行ったんですけど、すごいいい雰囲気で池の周りをぐるぐる回りながら写真を撮っていました(笑)。あとは、同シリーズに登場したフラミンゴは東山の動物園のフラミンゴだし、「bird eyes」のシリーズの一番はじめに描いた小さめの作品は京都タワーから見た景色でした。
N : ギャラリー自体はオープンした時から観に行ってたんですけど、その頃はまだ石橋さんと面識はなかったのですが、石橋さんは熱心に展覧会を見て回る人なので、私の展示も観に来ていただいていたみたいで。それから大学の時の後輩の表恒匡(おもてのぶただ)君の紹介でお会いして、その後展覧会をしようという話になりました。お会いする前から私の作品を見てくださっていたので、最初から話しやすかったですね。もう長いお付き合いになるんですけど、ずっと作品を見ていただいているというのと、一時期全然絵が描けなくて展覧会をしていない時期のこともすべて見てくれているので、すごく話してて楽ですし、理解してくれていると思っています。
& : 京都で活動されている理由は何でしょうか。
N : 一番最初にギャラリーに行ったのも京都だったのですが、それまで「アートといえば美術館」というイメージだったのですが、京都には、美術館で展示するような大御所の画家だけじゃなくて、学生など「様々な人が作品を発表できる場がある」ということがすごく新鮮でしたね。見る方も学生だったりとか、ずっと昔から絵を描いてきているような方だったり、本当に幅が広くて、緊張しすぎないけど刺激がある感じが好きですね。
& : 中比良さんにとって描くことはどういうことでしょうか。
N : 人見知りが強い方なので、そんなに自分の考えや意見を言える方じゃないし、だから絵を描いているんじゃないかと思いますね。絵を通すとグッと壁が取り除かれるんですよ。絵を通して自分のことも話せるし、相手のことも聞けますし。絵がないと興味の対象が違いすぎて、なかなか踏み込めなかったりとか…。
& : どういった人に自分の作品を見てほしいと思いますか。
The world turns over No,15 2009
N : 自分自身が、悩んでいる時とか不安を持っている時に、人の絵を見て救われたことがあるので、今自分の中にモヤモヤとしたものだったり、行き詰まりを感じているような人に見てもらえたらと思います。
& : 例えばこれまで展覧会に来ていただいた方に言われて嬉しかった言葉はありますか。
N : 自分が全然想像もしていなかったような見方をしてくれるときがあって、そういう時はおもしろいなと思いますね。「見られて良かった」とか「元気が出た」とか、そういうのはもちろんうれしいんですけど、逆に「もっとこうした方がいい」という意見もすごく自分のためになります。学生の時にみたいに周りに人がいる中で描いているわけじゃないから、そうやって人の意見を聴くことで次の作品に生かしたりできます。
& : 中比良さんにとって「社会」とはどのようなものでしょうか。
N : 最初は自分の世界からはじめられたものであっても、結局は社会に入っていかないと何も生まれないと考えています。嫌なこともあるけど、うれしいことも人と関わらなかったら生まれないものですから。
& : 社会においてアーティストは、どのような役割を持っているとお考えですか。
N : 私はアーティストというのは、「色々なものの見え方を人に噛み砕いて伝える」人じゃないかと思います。社会に出て人と関わっていても、はっきり言わない方がうまくいくことも多くて、みんながみんな本音を出せるわけじゃないから、見えないことってすごく多いと思っていて。だからこそ、そういうことを作品にすることによって普段人が見せてくれないことを見ることができたりというのが、アーティストにできる一番大きい仕事かなと思っています。私の場合は、たぶん一般的な人と変わらない考え方やものの見方をしているし、きっと自分が思っていることは他の人とそんなに変わらないんじゃないでしょうか。私の作品の中で自分のものの見方が誰かの共感を呼ぶことができるのなら、そういうものをどんどん見つけていって人に伝えていきたいです。
& : 今後どのように自分の作品を展開していきたいですか。
N : 発表が止まっていたときがあったので、そういう時期には戻りたくないと思っています。そういう時期が無駄だとは思っていないんですけど、やるからにはコンスタントに発表していきたいと思っています。社会的な関わりという話だと、今まではアーティストとしての関わりが少なく、自分がアーティストだという実感がなかったので、どこかで満たされないものがあったのですが、今後はもっと他のアーティストとか、アートに興味がある人とも交流できる場を作っていけたらと思っています。