アーティスト紹介

中川裕貴

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INTERVIEW WITH NAKAGAWA YUKI Vol.1 1/2

活動紹介とコンセプト - もう終わったとされている実験の中から、終わっていないものを探す

&ART(以下、&) : どのような活動を行っているか教えてください。
ソロライブ風景

ソロライブ風景 会場:FLOAT(大阪)
撮影:ヨシダダイスケ

中川裕貴(以下、N) : swimmと中川裕貴、バンドがメインの活動です。あとは勝野タカシさん、宮嶋哉行さん、僕の3人でやっているKATSUNOVAというユニットに入っていたり、演劇やダンスの舞台音楽を担当しています。これまでに烏丸ストロークロック、桑折現さん、高木貴久恵さん、南弓子さんなどの舞台作品に関わってきました。ワークショップも何度かやっていて、RADと+ticが行ったリサーチプロジェクトRESEARCH STORE HAMAMATSUの中でフィールドレコーディングのワークショップをやったり、即興演奏や、音楽鑑賞そのものをテーマにしたワークショップもやったことがあります。
& : 今回はswimmと中川裕貴、バンドの音楽性の話題に絞って、詳しく伺いたいと思っています。まずはこの2つのユニットのコンセプトを教えていただけますか。
N : swimmは現状では、ボーカルとギターの吹岡弘彬、鍵盤の大澤慧、僕の3人でやっています。特に言葉に重きを置いている活動で、音と言葉の関係性から生まれる可能性を探しています。言葉は全部吹岡が考え、それに僕が音を付けていきます。中川裕貴、バンドは僕の現在のメインプロジェクトです。今はピアノの菊池有里子さん、バイオリンの横山祥子さん、ハープの天野奏さん、ノンミュージシャンの出村弘美さん、僕の5人がメンバーです。メインテーマは“音楽とたたかう/たたかわないこと”。音楽を演奏しながら、音楽を通して観客に伝わるものについて思考するユニットです。

& : 私自身の見解として、swimmや中川裕貴、バンドでの試みには、前提に「ありふれた構造及び展開を持った音楽」に対し、音楽的な方法で批評を行う、または先人が行ってきた音楽的な方法での批評を引用するということがあると思っています。特に後者に関しては、中川さんが以前ブログ記事内 で「効果がない、意味がない、もう終わったとされている実験の中から、終わっていないものを探す作業はこれからも必ず必要だと思っています。来年ももう少し、腰を据えてその辺りを当たっていきたいです」(※1)とおっしゃっていることからもわかる通り、ここ数年意識的に行ってきたことではないでしょうか。先人が行ってきた音楽的な方法での批評の引用について、具体例としては中川裕貴、バンドの楽曲『A traffic accident resulting in death, i took different trains, in random order(事故/jiko)』における『Different Trains』(※2)からの影響や、swimmの楽曲『リトルボイス』におけるフリージャズ的な伴奏などがあります。ここまでの認識は間違っていないでしょうか。
N : 間違っていないです。
& : ありふれたというのは相対的な言葉ですが、たぶんswimmと中川裕貴、バンドで批評する対象が違うので、この定義はそれぞれのユニットや楽曲によって変わると思います。
N : そうですね。
中川裕貴さん

作曲方法(中川裕貴、バンド) その1 - 演奏しながらバランスをとるなど、プレイングマネージャーとして演奏に参加している

& : どのようにして「音楽的な方法で批評を行う、批評を引用する」ということを実践しているか、その検証を行う意味も込めて、具体的に数曲例を挙げ、作曲・編曲方法を解説していただきたいと思います。ですが、その前に1点確認をしたいことがあります。今回インタビューを行うにあたり、事前にいくつかメールで質問をさせていただきましたが、その中で「特に中川裕貴、バンドにおいては自分にとって作曲と編曲の境がかなり曖昧」とおっしゃっていました。まずはこの言葉の趣意について、ご説明いただいてよいですか。
中川裕貴、バンド×仙石彬人 ライブ風景

中川裕貴、バンド×仙石彬人 ライブ風景
会場:UrBANGUILD 撮影:村山真平

N : 中川裕貴、バンドでは、楽曲に通底するテーマ、時間的な構造、「ここで変化する」というような展開は僕が決めるんですけど、具体的なメロディーなどは個々の奏者に考えてもらっています。それを受けて僕が方向付けしたり調整するみたいなことが多いです。そういう意味で作曲と編曲の意識の境があまりないんです。
& : つまりアイデアと基礎的な構造を作る作業を最初にやって、その後旋律を加えるなど、肉付けする段階があるということですよね。
N : そうですね。中川裕貴、バンドで音楽を作るときにはまずそういうやり方をしていきます。
ノートに手書きで書かれた中川裕貴、バンドの楽曲 『A traffic accident resulting in death, i took different trains, in random order(事故/jiko)』のタイムライン

ノートに手書きで書かれた中川裕貴、バンドの楽曲 『A traffic accident resulting in death, i took different trains, in random order(事故/jiko)』のタイムライン


& : ではswimmと中川裕貴、バンドの楽曲、それぞれ曲の作り方について、具体例を挙げて教えていただいてよいでしょうか。
N : 中川裕貴、バンドの曲の作り方を『極東(壊れた)から家電と複数』を例に紹介します。これは中川裕貴、バンドのために作った曲です。まずバイオリン奏者に、冒頭2分間の演奏内容に関する指示書を渡すことから作曲がはじまりました。指示書には2分間で、どの音符をいくつ利用するのかということ、どの弦を使ってそれぞれの音符を弾くのかということなどが記してあります。指示書内にどのタイミングで音を出すかという具体的な指示はなく最初の段階で奏者に決めてもらい、決定後、各音符の上に書き込むよう指定しています。つまりバイオリン奏者は2分の間、使用する音符とその数、どの弦を使ってそれぞれの音符を弾くのか、どのタイミングで音を出すのか、ということを記した指示書を元に、 ストップウォッチと向き合って音を置いていきます。このような手法は、アメリカの作曲家 ジョン・ケージがいくつかの作品の中で採用していたものから影響を受けています。またピアノ奏者にはこの間、ずっと5拍子を刻んでもらうように指示し、そこに僕がチェロを叩いて打音を出し、少し変わった反復構造を作る感じで編曲していきました。2分経過後、つまり指示書による演奏終了後に弾かれるバイオリンのフレーズは、以後ほとんどずっと同じなんですが、CD が音飛びして、また頭に戻るエラーのような効果を楽器演奏でやってもらうよう指示しており、タイミングはバイオリン奏者の判断に任せています。また冒頭2分間の指示書によるバイオリンパートは、最後の部分でも全く同じように演奏します。他に「2 分過ぎた後にピアノで家電的な音を出した後、演奏を次に進める」「チェロに接続されている電子回路のノイズが増幅されたタイミングで全員が一度演奏を止める」など、全体の構成と展開も僕の方で考えていきました。
& : 具体的なメロディーなどは奏者に決めてもらうと言っていましたが、このフレーズがいい、よくないという判断基準を教えてください。
中川裕貴、バンド ライブ風景

中川裕貴、バンド ライブ風景
会場:UrBANGUILD 撮影:富松悠

N : 全部僕が基準です。そういう意味では、僕のやりたい放題という感じなんですね…。演奏は毎回若干変化するんですけど、演奏しながらそれぞれの奏者の音を聞いて、終わった後に「もっとこうした方がいいですね」ということを言ったりします。また演奏しながらバランスをとるなど、プレイングマネージャーとして演奏に参加しているようなところもあります。現代音楽の作曲家って、作曲だけして自分では演奏に加わらない人が多いじゃないですか。舞台芸術における演出家もそうだと思うんです。俯瞰して見ているというか。僕はそうじゃなくて、自分も参加してプレイしながらその瞬間で調整したい。曲を作る時も自分で演奏しつつ、他のメンバーの音を聞きながら考えて、「次はこうしていこう」「ここは少し今の状態を続けてから次にいこう」という展開を決めることが多いです。音楽の完成ということに対して、ある意味では無責任なところもありますが、それが中川裕貴、バンドにおける僕の役割の特徴です。

作曲方法(中川裕貴、バンド) その2 - 複数のものが同時に稼働していて、ぴったり合うことはないけれど、それでも音楽として聴くことができるという状態を目指しました。

& : 『極東(壊れた)から家電と複数』については、最初に「こういうことをしよう」といイメージやコンセプトは中川さんの中にありましたか。
中川裕貴、バンド×仙石彬人 ライブ風景

中川裕貴、バンド×仙石彬人 ライブ風景
会場:UrBANGUILD 撮影:村山真平

N : 参照したのはgnu(※3)の音楽です。gnuは用途や作動、停止する原因がよくわからないような編曲をしていることが多いように感じます。タイトルに「家電と複数」という言葉が入っていますが、例えば冷蔵庫と洗濯機と扇風機を同時に動かし始めたとき、動きも目的も全然異なるのだけれど、冷蔵庫のブーというファンの音と、洗濯機のグルングルンという音と、扇風機の首振りのタイミングが偶然合っていると感じる時がある。うまく達成できたか自分ではわからないけど、複数のものが同時に稼働していて、ぴったり合うことはないけれど、それでも音楽として聴くことができるという状態を目指しました。その念頭にあったのはgnuの音楽でした。
& : なるほど。
N : でもこの曲に関しては、現在では音楽の上で、僕が用意したテキストを出村弘美さんが読むバージョンもあり、最初の作曲時とは意味合いが変わってきている部分があります。また僕にとっては、所謂“音楽を作る”ということが終着点になるのではなく、どういうふうに観客に受容してもらうかも重要です。僕の作った音楽は、僕が聞いてきたもの、感じてきたことの一部を反映しただけにすぎなくて、作った音楽をどのように聴かせるか、パフォーマンスの中にその“出来た音楽”をどう組み込むか、そしてそれをどう説明をするかということはまた別の作業なんです。今お伝えしたのは音楽を作る段階の話です。
& : 中川裕貴、バンドのライブで『私たちとさえ言うことのできない私たちについて』を演奏する際、曲の構造を演奏前にアナウンスするじゃないですか。最初にどういう構造で曲を作っているか、観客に伝えたい曲もあるということですよね。
N : そうですね。でも例に挙げた『極東から(壊れた)家電と複数』は、構成より音楽の配列やリズム、メロディー、音高のデザインなどを聴いてほしいという思いが強い曲です。『私たちとさえ言うことのできない私たちについて』のような、構造が最重要の曲とはまた種類が異なります。『極東(壊れた)から家電と複数』は真正面から音楽として受け止めてもらいたい曲です。

& : 「真正面から音楽として受け止める」というのは感情を重ねたり、リズムにのったりといった用途で音楽を使ってもらってもいいということでしょうか。
N : はい、ある程度はそのように聴いてもらっていいかなと思います。
& : 中川裕貴、バンドの曲で、最初のアイデアや骨格の部分を中川さん以外が持ってきた曲もあるんですか。
N : あります。『ステンレスシンク』という曲です。これはピアノの菊池さんが作った曲です。もともとピアノのフレーズがほぼ決まっており、そこにチェロやバイオリンを足したりしながら、僕が編曲していくという工程で作りました。今度、正式なアルバムのレコーディングをするのですが、その時はオーディオコメンタリーバージョン(※4)で録音します。中川裕貴、バンドで使用するセリフは僕がすべて考えているのですが、この曲についてもセリフを持ち込んだのは僕です。出村さんのライブでの身振りも含めて、その内容を僕が決めています。
& :では他の人がアイデアを持ってきたとしても、肉付けしたり、変更したり、改変する際の主導権は中川さんが握っているということなのですね。
N : 基本的には僕がやっています。でも菊池さんは音大のピアノ科を出ていますし、明らかに僕よりも音楽的素養がある人なので、音楽理論に関する細かい知識も僕よりもはるかにあります。「このスケールから一番いったらいけないスケールはなんですか」とか、そういうことを教えてもらい、またそのように弾いてもらったりと、音楽理論的なことは菊池さんにシミュレーションしてもらうこともあります。
中川裕貴さん

作曲方法(swimm) - いつまでも言葉と音のもたれあいのようなことをやりたい

& : swimmでは吹岡さんが主旋律を作っているんですよね。
N :そうです。swimmは、中川裕貴、バンドと曲の作り方が異なります。swimmではいつも吹岡が歌詞を持ってきてくれます。その時点でギターのフレーズやメロディーも大体決まっています。吹岡の歌詞を読み、鍵盤の大澤君と二人で音を付けたり、歌詞を削ったり長くしたりしながら編曲を加えていく感じです。音を付けたことで言葉が変わっていくこともあります。吹岡は「どういうふうにしてくれてもいい」と言ってくれていて、作業としてはわかりやすく分業できている感じです。こちらは正に編曲という感じですね。
& : では例を1曲挙げて作曲について教えていただけますか。
N : 『リトルボイス』を例に挙げて紹介します。普通の編曲ではギターのコードなどに対してリズムやコード、メロディーを足していくと思いますが、『リトルボイス』では前半部分が完全にインプロになっています。吹岡がギターを弾きながら歌っているのに、そのコードや歌のメロディーとは全く関係ないものがどんどんぶつかっていっていく。僕はいつも吹岡が考えた節やリズムやコードだけ聴いているのではなく、言葉も追いかけています。swimmの曲はほとんどそうなのですが、吹岡の言葉を読んで、発話を聞いて、それに最適なものが何かということを考えて音をつけています。『リトルボイス』では、まず「今夜もそいつは 僕の部屋にやってきて」という言葉を見たとき、全然関係ないものがそこにあってもいいと思いました。なので、大澤君と僕のインプロでのぶつかり合いと歌が共存するという構造を作りました。「町に溶けてった」という言葉の後に、一回スパンと切って「かすかに光る声は音楽」というところで初めて音楽を開放するイメージです。吹岡はこの曲が何でこんなことになっているのかよくわからないと思ったみたいですけど…。このように音の足し方がいわゆるポピュラーミュージック的な発想とは若干違います。音楽理論やコード進行があまりわかっていないという事情もあるのですが、音楽の進行に対して、メロディーとかリズム、コードに反応するだけではなく、もっと言葉に忠実に反応しようと思っています。
『リトルボイス』の歌詞カード

swimmの楽曲『リトルボイス』の歌詞カード


& : 『リトルボイス』にはインプロパートがありますが、『カタリコトリ』などでは、音が詞にエモーショナルな力と、より暗示的なドラマ性、混沌を与えている印象があって、音が言葉のためのサウンドトラックのように機能している傾向が強いように思います。『踊る(春を待つ)』でも共通の印象があり、音のしない電車に乗りながら風景が、小さないくつものドラマが、記憶が通り過ぎているようなイメージを抱きます。swimmについては、歌詞の内容に対して、ある意味ストレートな編曲をすることも多いですよね。
swimm ライブ風景

swimm ライブ風景 会場:FLOAT

N : そうですね。これは僕自身が変化している部分なのですが、ポピュラーミュージックのマナーが見に付いてきており、その詞に合う音を選べるようになってきたことが影響しています。より普通になっているとも言えるので、その辺は葛藤もあります。またその葛藤が中川裕貴、バンドに反映されている部分は多少なりとあると思います。ただswimmでも『リトルボイス』のような、所謂一般的な音楽とは少しズレたところに自分の編曲を置くことは今後もやっていきたいです。『踊る(春を待つ)』に関してはスタンダードな編曲もありますが、事前質問のやりとりの際にも指摘していただいた「タンゴ・ロンド・ジルバ・ワルツ」と言い終わったタイミングでワルツを弾くという展開は、正に言葉を受け取った後に変わるという…。
& : 言葉によって音楽が動かされている感じがしてとても良いですよね。
N : いつまでも言葉と音のもたれあいのようなことをやりたいと思っています。そういうことに興味をもったのは、烏丸ストロークロックをはじめとした演劇に関わってきた影響が大きいと改めて感じますね。swimmは今、音楽がメインだけれど、ポエトリーリーディングのようなことをやっていた時期もあります。これからは、そういう試みをもう一度やるなど、音と歌という形だけではなく、音と言葉について別の関係性を持てる方法を探っていきたいです。吹岡の歌詞が好きなのですが、歌にした瞬間に言葉のきめ細やかなところが消えてしまうこともあると思っていて。その辺りも、話される言葉と歌われる言葉を分けたうえで掘り下げて、より良い表現ができるよう考えていきます。

(※1)中川裕貴、2013年ベスト http://nonpage.exblog.jp/21169992/
(※2)アメリカ生まれのユダヤ人作曲家スティーヴ・ライヒが、自分の幼少時代と、同時期のヨーロッパで起こっていたホロコーストを、
「汽車」というキーワードによって結びつけ、ミニマル・ミュージックの技法によって作曲したドキュメンタリー性の強い楽曲。
(※3)1997年に結成されたバンド。現在のメンバーは大蔵雅彦、種石幸也、熊田央、イトケン。作曲によるアンサンブルに重点を置いたスタイルを特徴としている。
(※4)演奏中の音楽についての説明を楽曲演奏と同時併行でリアルタイムに行うバージョン。
『極東(壊れた)から家電と複数』『ステンレスシンク』の楽曲説明はメンバーの出村弘美が行う。



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