アーティスト紹介

地点

  • 作品集(画像)
  • インタビュー
  • スケジュール
  • プロフィール

INTERVIEW WITH CHITEN 2009.11.30

作品について 俳優がノンフィクション的に舞台にいるんじゃないか

&ART(以下、&) : 劇団のコンセプトをお聞かせ下さい。
三浦基(以下、M) : 「純粋に演劇をやっていく」というのが、地点の最も大きい活動の動機です。2005年に東京から京都に移ってきたのですが、地方の劇団というのは、少し人気が出ると必ず東京に進出するという傾向があるんです。地点はその逆で東京から京都に移ってきているわけなので、演劇界からするとユニークに映っているみたいですね。
& : 地点の活動は大きく分けて、アントン・チェーホフ作品の上演と、戯曲の解体・再構成を主軸とした最新作『あたしちゃん、行く先を言って』のような作品の2本柱とお聞きしました。それぞれの活動についてお聞かせ下さい。
「桜の園」2008 撮影:青木司

「桜の園」2008 撮影:青木司

M : チェーホフというのは19世紀のロシアの作家で、彼の作品はいわゆる古典なんですよね。僕の場合はチェーホフに特化して長編の四大戯曲をすべて上演しました。古典を現代演劇化するということがひとつの大きな仕事だと思っています。その一方で現代の作家の作品を扱っていくことを、2本目の柱にしていて、最新作では太田省吾という劇作家を扱いました。戯曲の解体については、特に「古典だから、現代だから」ということではなく、ひとつのスタイルだと思っています。なぜ解体するかというと、僕は物語をただ解説するために、観客に劇場に来てもらっているのではないと考えていて、「小説とはちょっと違う、演劇ならではの物語性、時間の流れを構成してみたい」というのが理由です。太田省吾を扱った『あたしちゃん、行く先を言って』に関しては、戯曲だけじゃなくて彼が書いた評論やエッセイも扱って再構成しています。今まではほとんどセリフばかり扱ってきたので、それは新しい挑戦です。
& : 戯曲だけでなく、評論やエッセイも扱うことで、他に類を見ないオリジナリティーが生まれているような印象を受けました。
「あたしちゃん、行く先を言って―太田省吾全テクストより―」 2009 撮影:清水俊洋

「あたしちゃん、行く先を言って―太田省吾
全テクストより―」 2009 撮影:清水俊洋

M : 例えば戯曲だけをコラージュしていくと、俳優の仕事が、「役を演じる」ということになるんですよね。だけど『あたしちゃん、行く先を言って』で俳優が語っているのは、演劇論であったり、作家のエッセイであったりするんです。僕は「演劇が本当にフィクションなのか」というよりも、「俳優がノンフィクション的に舞台にいるんじゃないか」ということを考えているんです。その時、俳優の仕事は「役」という枠だけではないですよね。僕はそういうことを扱いたいと思っています。

& : 地点の作品では身体、テクスト、音、映像といったさまざまな要素が絶妙な関係性の中で成り立っているような印象を受けたのですが、これらの関係性はどのようなプロセスで作っていくのでしょうか。
M : 演出家の仕事というのは人間へのディレクションなんです。いい仕事をするためには、メンバー同士が対等の環境を作っていかなくてはならないんです。ひとつの作品を作るうえでは、それぞれがアイデアを出し合ってやっていくことが多いんです。もちろんこういった制作上の関係性は自然にそうなったんじゃなくて努力したんですね(笑)。僕の場合は人に自分のイメージを押し付けるという欲望がないんです。舞台芸術というのは基本的に人と人が作るものなので、話し合いながら「メンバーから出てきたものをどうジャッジしていくか」というのが、ある意味で制作の醍醐味だと考えています。
& : 地点で映像制作をしている山田晋平さんからは、作品の映像制作プロセスとしては、三浦さんからイメージを伝えられてその通りに作るというのではなくて、山田さんからアイデアをプレゼンテーションして、三浦さんが採用していく流れで制作しているとお聞きしました。
M : 僕の場合は、演技と舞台美術が切り離せない環境で作っています。なので、そういう意味ではスタッフも俳優の一人のように見ています。山田君なんかは変わった映像を持ってくるんですよね。それは俳優に対して「変わった芝居をするなぁ」と思う時に似ています。「それどういうことなんですか?」と聞いていく作業からまず始まるというか(笑)。その中に面白い部分や、僕の考えも改定される部分というのが、必ず起こってきます。そういうのが即結論にはなるのではなく、紆余曲折(うよきょくせつ)がありながら一カ月後などに「あれはここでなら使えるんじゃないか」とか、「これが基軸になるんじゃないか」という感じでふっと出てくるわけです。「アイデアを寄せ集め寝かせる」ということを少しずつやっていくんです。ようやく「これで行きます。」となったときに材料が多い方がいいわけですよ。
三浦基さん

京都のついて 人を喚起する環境があって、また、それに応えることができる都市

& : 地点は東京から拠点を移し、京都で活動していますが、京都という街の魅力はなんでしょうか。
M : 例えば僕はパリに2年間留学していたのですが、その時に住んでいたアパートは100年前の建物だったんです。他にも道とかパッサージュと呼ばれるものも全部そのままなんですね。それが中世からずっと続いているわけです。京都はそれに近い感覚があります。劇団を移転する前には何本か京都で単独で演出の仕事をしていたのですが、その時に「もし京都にきちんとした劇場ができれば、相当ポテンシャルの高い文化都市になるんだろうな」という印象を受けました。そういったところに期待して思い切って移転して来たんです。
& : 京都には歴史性が場所と密接したまま残っている場所は多いですよね。
M : やはり道が変わらないということが重要だと思うんです。東京の開発は道をめちゃめちゃにしましたから。それはそれで面白いことでもあるんですけどね、唐十郎の"紅テント"とか、寺山修司のいわゆる移動演劇などは極めて都市に敏感な作り方の演劇だと思います。今日本全国あちこち公共ホールが立っていますけど、大抵は地域活性という名目で郊外に作るんですよね。京都もそういうところがあって、街の中心部に劇場がないんです。
三浦基さん

& : そういった状況の中で、京都芸術センターが京都の中心にあるということは大きいんじゃないですか。
M : そうですね。東京にいるとき、京都芸術センターが、僕の演出を扱ってくれたというきっかけがあって京都に来たので、あの場所がなければ京都には来ていないでしょうね。全国的に見てもああいう施設の運営方式は大変珍しいですし、非常に先駆的な事業だと思います。
& : 現在京都らしい町家を事務所にしていますが、いつ頃ここに入ったのでしょうか。
地点事務所内観

地点事務所内観

M : ここは1年前に偶然不動産屋で見つけたんです。できれば「ここを交差点にして色んな人の出入りがあれば」と思っています。「パフォーマンス性をもった建物がある」という1つのシミュレーションですよね。ここが、「10倍くらいの大きさになって稽古場になり、100倍くらいの大きさになって劇場になる」というイメージを持っているんです。今はまだ僕の理想でしかないんですけど、京都という場所はそういうことが実現できる場所だと思っています。別に僕が町家好きとか骨董好きとかいうわけではないんですけど、京都は人を喚起する環境があって、また、それに応えることができる都市なんです。そういうのはすごく面白いですよね。京都国際マンガミュージアムや、京都芸術センターなどは、もともと都市形成の中にあった小学校跡をリニューアルした場所ですから、ポテンシャルは高いわけですよ。アクセスもよくて、運営していく側の発想で活性化、再生していけるという可能性があります。僕もそういう拠点作りをしていきたいと思います。

社会について 演劇を続けている以上劇場を作りたいという思いがある

& : どのような人に地点の作品を見てほしいですか。
M : 誰にでも見てほしいですよね。ただ、それも結局劇場と関わっていて、まともな劇場があれば世界中から色々な人が観に来るんですよ。実際に京都には世界中から観光客が集まって来ていますから。だから作品自体を見てほしいというよりも、演劇を続けている以上劇場を作りたいという思いがあるんです。劇場文化の環境を整えるということがすなわち僕の演出作品を見せるということに繋がると思います。後は演出をやりはじめたころは、自分の親が客席の一番前にいると想定していました。例えばうちの母親が観ても今でも恐らく全く理解できないんだろうなと思います。父親は反対しているわけじゃなくずっと応援してくれているんですけど、ようやく「こういう変なことをやってるんだな」ということが解ったみたいですね。真顔で「あの作品のあそこがよかった」と言い出すんです。「わけわからないことやってるんだけど、そこに何かあるんじゃないか」という意識で見続けたんだと思うんです。見続けるということがとにかく重要で、そういう環境を作っていきたいですね。

& : 現在の演劇において、また社会の中で地点の作品はどのような位置づけにあるとお考えでしょうか。
「あたしちゃん、行く先を言って―太田省吾全テクストより―」 2009 撮影:清水俊洋

「あたしちゃん、行く先を言って―太田省吾
全テクストより―」 2009 撮影:清水俊洋

前衛を意識したいということは思っていますよね。前衛とは突拍子もないことをやるのでなく、歴史を鑑査ながらその先をいくことだと思うんです。「三浦の作品はよく解らない」とよく言われるんですが、それは敵対して「もっと解りやすいことをやれ」と言っていいわけですよ。でもそれをやるとどこまでも迎合しちゃいますから、前進できないですよね。全く新しくないんですよ。そういう意味では社会と付き合っているつもりです。社会と付き合っているからこそ先を提示する。そして自分でも驚くような作品を作っていく、というのが理想的です。

地域のコミュニケーションからも勉強していきたい

& : 今後のご予定をお聞かせ下さい。
M : チェーホフ劇をロシアで上演することが来年の9月に決まっています。それから、神奈川県に新しい劇場ができるんですけど、そこで新作を3年間継続して計3本発表します。また京都での活動予定としては京都芸術センターが来年の4月に10周年を迎えるので、その式典の総合演出を頼まれています。そういった地域のコミュニケーションからも勉強していきたいと思います。

& : 来年三浦さんが執筆された『おもしろければOKか?現代演劇考』(五柳書院)という本を出版されるそうですね。
M : 1月の東京公演の初日に間に合うように出版するのですが、内容は現代演劇論です。僕のやってきた演出についての紹介と、今日話したような「現代芸術の在り方」が記載されている本です。


このページの一番上へ